[SS]見えない貴方と見えるもの

瑞肴さんにマスカイSS頂いたよおおお
あーもー一見弱いのに芯は強い子とかたまらないほんとだいすきすぎる
NumberleESについては2記事前参照のボカロ修理屋さん
でも修理より改造の方が仕事多そうである。。
↓からどぞ
この春に改装されたコンサートホールの前に、一台のポルシェが停まった。鈍い銀に光る車体から降りてきたのは、男1人に女2人。男は、女を従えてコンサートホールへと向かう。
時刻は深夜に近い。明後日開かれるコンサートの為、準備が行われている小ホール以外は人気もなく、警備員が巡回をしているくらい。
関係者でもないのに、何故かするりと潜り込んだ3人に、待合の椅子にちょこんと座った青年は驚いた顔で彼らを見上げた。
「……」
ほえー。という顔で。
男は、様になる動きで肩を竦めてから、わざとらしく肩を落とした。
「縁があるなァ、お間抜けボカロ」
きょろ・きょろ。
「…僕ですか…?」
「他にいねェだろ誰も」
青年は、流石にしょんぼりと、捨てられた犬のような顔をする。
「我が主、漫才している時間があったのかや?」
女性のうち、赤い髪赤い目の片方が言う。
「主様、凡俗に関わっている時間は御座いません」
残る女性、白い髪白い目の片方が言う。
「わーかってるわかってる。…ちょ〜どいいや、一寸手伝って貰おーか」
ぽむり。
KAITOの肩を爽やかに叩いた彼の名は、NamberleESという。
「さっきから、空調の音がおかしーって思わなかったか?」
「はい。凄く音が大きくなって、空気が流れた音も聞こえてきました」
「あー、ウン、そーなんだよ。普段ならどーでもいんだケドよ、俺ぁ5日後に大ホールでやるオペラ観るつもりなんだよなァ」
「オペラ…。…僕も聞いてみたいです」
「勉強熱心なのは良ぃコトだ。…じゃなくてだな」
NamberleESが、ぼりぼりと頭を掻いた。
「だから、今日なンかあると困るんだよ。例えば小ホールの空調が”たまたま”ブッ壊れて”たまたま”リハの為に中に居たニンゲンが大量に逝っちまったりしたら」
先ほどの音は、小ホールの中の空気を抜いている音だと説明を受けて、数秒経ってからやっとKAITOは人間には酸素が必要なのだということを思い出した。
「…マスター! マスターは…!」
入ってくるなと言われていたけれど、それは忘れて大きな扉に手を掛ける。両開きの大きな扉を思い切り引っ張るが、扉はびくともしなかった。
「…あの、手伝って貰って良いですか?」
「…腰低いなァお前」
だからあのマスターと相性が良いのかね、頭の中で零しながらNamberleESは動くわけでなくKAITOを見下ろしている。理想はコトが起こる前に到着したかったのだけれど、どうやらコトは進みきっているらしかった。NamberleESのやる気がグングン下降している。めんどっくせぇーー、もー帰るかなー、だって此処から関わるのも面倒だしぃー。女子高生的なかったるい感想を抱きながら、目の前のボーカロイドに意識を戻した。
まるで自分が殺されるかのような、顔をしている。
違う。
させられている。
「クク、…良いぜ、手伝っても。代償は頂くがなァ」
「お金がいるんですか?」
NamberleESは、顎で扉を示す。
「扉の隙間はゴムで密閉するように作ってある。そこに腕ぇ捻じ込ませれば、俺が腕を梃子にして扉を開けてやるよ」
「わかりました」
KAITOがホッとしたように笑う。NamberleESは、僅かに目を細めて、口端を上げて、笑った。
指がまず食い込む。みちみちと、確実に。素材の手触りは人に近いが、DoLLの骨格は意外に丈夫なつくりをしている。ただし、痛覚は、なんらかの違法改造を施されていない限りは、人とほぼ同じ。
爪が剥がれて、皮膚素材が剥がれて、コードが見えて。
「…M?」
「……っ …ぇ?」
「なんでもね。早くイれね〜と、中ヤバぃことなってるぜぇ」
「…ぅ、はい…」
痛いんだろぉなあ、NamberleESはKAITOの背中を眺めている。小刻みに上下する肩に、震えている両腕。激痛を厭い力を緩めれば、もう半ば入り込んでいる腕を、扉の圧迫が締め付ける。
ほんの少し、扉が軋み、隙間が開く。
「…緋紅(ひべに)、そいつの口塞げ。深白(ししろ)、両足の固定」
「承知」
「承知しました、主様」
緋紅がKAITOと唇を重ねると、深白が座り込んでその両足をがちりと捉える。
「じゃ、いくかァ」
KAITOの肩に手を掛け、渾身の力で上体を扉へと叩きつける。
「・・・・・!!!!!」
”危害を加えてはならない”
この一文の所為で唇を噛み痛みに堪えることも出来ないKAITOの絶叫は、緋紅の口の中へ消えた。
「…ますたー、マスター、…マスター…」
声が聞こえる。割れるように痛む頭に静かに染みるのは、聞き慣れた声。
『ぁ? ああ、代償? いーんだよ、じきに”貰う”。俺ァ支払いは適切な相手から徴収するんでな』
薄っすらと、目を開く。飛び込んできたのは、蒼い髪と泣きそうな目。
「……KAITO…?」
手を伸ばそうとして、触れなかった。避けられた。こんな時だが、どういうつもりなのかと腹立ちが湧き上がりかけ、状況を理解し、一転、頭の芯が冷えていく。
「あの、…駄目なんです、コードが出てるから火傷しちゃいます、マスター」
あり得ない方向に捻じ切れたKAITOの腕が、肘から先、かろうじてぶら下がり揺れている。
「………」
奥歯が鳴るほど顎に力が込められた。
『誰って? ンなの決まってんだろぉが、オマエのマスターだよ』
「…マスター? どうしたんですか? …何処か痛いですか…?!」
KAITOの腕は、彼の後ろで揺れている扉を無理矢理開いた所為だろう。それで、自分は意識を取り戻せたのだろう。
なのに、抱き締めることをしない、己の無事な両腕を、駿水は強く深く憎んだ。
「代償は、”自分を助ける為に潰れたDoLLの両腕を見ること”。命と引き換えにゃ、それっくれぇが丁度だろうよ、マスターサン?」
コンサートホールを背に、古いボーカロイドが嘯いた。
時刻は深夜に近い。明後日開かれるコンサートの為、準備が行われている小ホール以外は人気もなく、警備員が巡回をしているくらい。
関係者でもないのに、何故かするりと潜り込んだ3人に、待合の椅子にちょこんと座った青年は驚いた顔で彼らを見上げた。
「……」
ほえー。という顔で。
男は、様になる動きで肩を竦めてから、わざとらしく肩を落とした。
「縁があるなァ、お間抜けボカロ」
きょろ・きょろ。
「…僕ですか…?」
「他にいねェだろ誰も」
青年は、流石にしょんぼりと、捨てられた犬のような顔をする。
「我が主、漫才している時間があったのかや?」
女性のうち、赤い髪赤い目の片方が言う。
「主様、凡俗に関わっている時間は御座いません」
残る女性、白い髪白い目の片方が言う。
「わーかってるわかってる。…ちょ〜どいいや、一寸手伝って貰おーか」
ぽむり。
KAITOの肩を爽やかに叩いた彼の名は、NamberleESという。
「さっきから、空調の音がおかしーって思わなかったか?」
「はい。凄く音が大きくなって、空気が流れた音も聞こえてきました」
「あー、ウン、そーなんだよ。普段ならどーでもいんだケドよ、俺ぁ5日後に大ホールでやるオペラ観るつもりなんだよなァ」
「オペラ…。…僕も聞いてみたいです」
「勉強熱心なのは良ぃコトだ。…じゃなくてだな」
NamberleESが、ぼりぼりと頭を掻いた。
「だから、今日なンかあると困るんだよ。例えば小ホールの空調が”たまたま”ブッ壊れて”たまたま”リハの為に中に居たニンゲンが大量に逝っちまったりしたら」
先ほどの音は、小ホールの中の空気を抜いている音だと説明を受けて、数秒経ってからやっとKAITOは人間には酸素が必要なのだということを思い出した。
「…マスター! マスターは…!」
入ってくるなと言われていたけれど、それは忘れて大きな扉に手を掛ける。両開きの大きな扉を思い切り引っ張るが、扉はびくともしなかった。
「…あの、手伝って貰って良いですか?」
「…腰低いなァお前」
だからあのマスターと相性が良いのかね、頭の中で零しながらNamberleESは動くわけでなくKAITOを見下ろしている。理想はコトが起こる前に到着したかったのだけれど、どうやらコトは進みきっているらしかった。NamberleESのやる気がグングン下降している。めんどっくせぇーー、もー帰るかなー、だって此処から関わるのも面倒だしぃー。女子高生的なかったるい感想を抱きながら、目の前のボーカロイドに意識を戻した。
まるで自分が殺されるかのような、顔をしている。
違う。
させられている。
「クク、…良いぜ、手伝っても。代償は頂くがなァ」
「お金がいるんですか?」
NamberleESは、顎で扉を示す。
「扉の隙間はゴムで密閉するように作ってある。そこに腕ぇ捻じ込ませれば、俺が腕を梃子にして扉を開けてやるよ」
「わかりました」
KAITOがホッとしたように笑う。NamberleESは、僅かに目を細めて、口端を上げて、笑った。
指がまず食い込む。みちみちと、確実に。素材の手触りは人に近いが、DoLLの骨格は意外に丈夫なつくりをしている。ただし、痛覚は、なんらかの違法改造を施されていない限りは、人とほぼ同じ。
爪が剥がれて、皮膚素材が剥がれて、コードが見えて。
「…M?」
「……っ …ぇ?」
「なんでもね。早くイれね〜と、中ヤバぃことなってるぜぇ」
「…ぅ、はい…」
痛いんだろぉなあ、NamberleESはKAITOの背中を眺めている。小刻みに上下する肩に、震えている両腕。激痛を厭い力を緩めれば、もう半ば入り込んでいる腕を、扉の圧迫が締め付ける。
ほんの少し、扉が軋み、隙間が開く。
「…緋紅(ひべに)、そいつの口塞げ。深白(ししろ)、両足の固定」
「承知」
「承知しました、主様」
緋紅がKAITOと唇を重ねると、深白が座り込んでその両足をがちりと捉える。
「じゃ、いくかァ」
KAITOの肩に手を掛け、渾身の力で上体を扉へと叩きつける。
「・・・・・!!!!!」
”危害を加えてはならない”
この一文の所為で唇を噛み痛みに堪えることも出来ないKAITOの絶叫は、緋紅の口の中へ消えた。
「…ますたー、マスター、…マスター…」
声が聞こえる。割れるように痛む頭に静かに染みるのは、聞き慣れた声。
『ぁ? ああ、代償? いーんだよ、じきに”貰う”。俺ァ支払いは適切な相手から徴収するんでな』
薄っすらと、目を開く。飛び込んできたのは、蒼い髪と泣きそうな目。
「……KAITO…?」
手を伸ばそうとして、触れなかった。避けられた。こんな時だが、どういうつもりなのかと腹立ちが湧き上がりかけ、状況を理解し、一転、頭の芯が冷えていく。
「あの、…駄目なんです、コードが出てるから火傷しちゃいます、マスター」
あり得ない方向に捻じ切れたKAITOの腕が、肘から先、かろうじてぶら下がり揺れている。
「………」
奥歯が鳴るほど顎に力が込められた。
『誰って? ンなの決まってんだろぉが、オマエのマスターだよ』
「…マスター? どうしたんですか? …何処か痛いですか…?!」
KAITOの腕は、彼の後ろで揺れている扉を無理矢理開いた所為だろう。それで、自分は意識を取り戻せたのだろう。
なのに、抱き締めることをしない、己の無事な両腕を、駿水は強く深く憎んだ。
「代償は、”自分を助ける為に潰れたDoLLの両腕を見ること”。命と引き換えにゃ、それっくれぇが丁度だろうよ、マスターサン?」
コンサートホールを背に、古いボーカロイドが嘯いた。
2008/05/16(Fri) 23:36:48 | 絵