貴方の街のおくすりやさん
外見は人間で、質量もほぼ人間と同じといえども、決定的に違うものはある。
鈍い、よりは甲高い音をあげて、KAITOが床に崩れ落ちた。
一瞬場は凍りつくも、特徴的な蒼い髪と頭部のマイクから、それがボーカロイドであることはうかがい知れて、緩い空気が場を覆っていった。
「お客さま…」
百貨店の制服に身を包んだ女性スタッフが駆け寄り、駿水の足元で転がっているKAITOの傍に膝をついた。
メンテナンスの業者をお呼びしましょうか? 伺いながら見上げてくるのに、駿水はやっと我を取り戻した。ほんの一瞬で、頭から血の気が失せていたのは、何故か。
女性スタッフの指先が、転がるKAITOの髪に触れた。うつ伏せに倒れている様は、いくら機械人形とはいえ見目良いものではなく、仰向けにしようとしているのだろう。
「 さ 」
「あーあーあー、コレ、ボカロだろ、一部熱持ってるかもしれねェから迂闊に触らねェほーが良いゼ、店員サン」
横から、男が割って入った。
「え? そうなんですか?」
女性スタッフは頓狂な声を上げている。男は、したり顔で頷いた。
「そ。あ、俺ァこーゆー者デス。軽く診てやっからマスターサン? そのボカロ、ベンチまで移動させてィい?」
ぎちり。
音がたちそうなほど眉間に縦皺を刻んだ駿水に物怖じせずに、男が名刺を差し出した。DoLLメンテナンス業者、何某、と。DoLLとは、ボーカロイド・セクサロイドなど等の総称だ。
「…構わん。なんにせよ此処に転がし続けるわけにはいかないからな」
了承を得ると、男は女性スタッフを手際よく追い払い、薄ら笑いを浮かべて駿水を見下ろした。
「じゃァ、どーぞ」
KAITOを見下ろす。
駿水は、ほんの時々そうするようにKAITOを抱き上げて、階段の踊り場にあるベンチまで彼を運び込んだ。不機嫌オーラを抑えようともしない駿水の後ろを、のこのこ男がついてくる。大概の人間は、影の頭も踏まないように離れてついてくるだろう雰囲気の中、のっこのこ。
「少し休ませたら自己修復するだろう…。騒がせたが、手を借りるほどのことでもない」
「はっはー、確かに単なる熱暴走だろうな、十中八九。…ケドよ、コイツさっきから足の運びオカシかったぜ? 関節イカれて直しきれてないとこを、無理に動かしたんじゃねェ? 負荷が掛かり過ぎての熱暴走だ」
「……」
心当たりはある。ただ、今日の外出は前から決めていたもので、KAITOは予定を変更したがらなかった。久し振りに、マスターと外を一緒に歩けるからと。
「…『触るな』っつーほどダイジなボカロに、なァにしてんだ、人間」
声が変わった。軽い調子ではない、そこで駿水は違和感に気付いた。さっきから、なにか音が引っ掛かると思っていた。
「…ボーカロイドか」
男は肩眉を上げ、驚いたポーズをとってみせた。
人間にはあり得ない発声。いつも耳にしているから、わかる。
「余計な世話だ。邪推は止めておけ」
睨み合いではないが、暫くの間。
やがて、男はくしゃりと笑う。伊達な笑みであったが、おそらく自分を嘲っているのだろうと駿水は察し、まさしくその通りであった。
「足の付け根に特に負荷が掛かってる。そこと頭冷やしたら自己修復早まるぜ」
「礼が欲しいのか」
眼前に、掌が差し出されている。目を細めてそれを見下ろす。
「こっちも商売なもンで?」
小気味良い音がして、財布から引き抜かれた数枚が男の掌に投げ捨てられた。
「Danke schon」
背を向けた男が、顔だけ振り向く。
「”困ったとき”のボーカロイドの修理修復は”NamberleES”へ。どんなオコマリも即決解決現金払いってな」
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コードネームNamberleES様君臨!瑞肴さんちの、マスターのいない自立したボカロですよ・・!かっこよす
ハヤミは、や、もう、イメージ通り、どころかもっとかっこよくなってる やばい はあはあ
自キャラ萌どうなのよって感じだけど好きな設定盛り込んだんだから
き ら い な わ け が な い
たったあれだけの情報でこんな的確なキャラ付を・・ッ さ、さすがすごすぎる
2008/03/26(Wed) 21:47:27 | 絵